縄目が肌に残る

新しい畳の匂いのする、このお屋敷には不似合いな和室だったのです。

 

掛け軸のかかった床の間と、奥の壁に寄せて置かれている大きな屏風。

 

ほかにはなにもない部屋でした。

 

掛け軸には漢詩のようなものが書かれていました。

 

花は生けられてません。

 

大きな屏風には墨一色で山水画が描かれています。

 

そこは、色のない部屋でした。

 

「隣りで服を脱いできてください」

 

言われて示されたほうを見ると、襖の向こうに次の間があるようでした。

 

わたくしは覚悟を決めて、服をすべて脱ぎました。

 

「あっ!」

 

わたくしはびっくりして声をあげてしまいました。

 

元の部屋に戻ると、知らない男性があの方と並んで立っていたのです。

 

「ここへ、もっと部屋の真ん中へきてください」

 

「はい」

 

「座ってください。

 

足をこちらへ、そうではなく、もっと、こうです。

 

しばらくそうしていてください」

 

「はい」

 

「もう少し、丁寧に縛ってやってくれないか」

 

「俺は、こういう仕事は苦手なんだよ」

 

「なにを、おっしゃってるんですか。

 

本職でしょう?」

 

「いやあ、壊れものみたいな体は、やりにくくてしょうがねえ」

 

「そこを、うまくやるのがプロでしょう」

 

「旦那も、よく、言うねえ」

 

「人妻なんですから、痕なんかつけられたら困ります」

 

「縄目が肌に残るくらいじゃないと、縛った気がしねえよ」

 

「そんなこと言ってないで、お願いしますよ」

 

「俺も、プロだからな。

 

受けた仕事はきちんとやるけどよぉ」

 

なにがなんだかわからないうちに、わたくしの肢体は緋色の布ひもで、縛り上げられていたのです。